この『言志録』の言葉はたいへん励みになる。記憶または記録しておいて、何かあったときに取り出すといい。
士は当に己れに在る者を恃むべし。動天驚地極大の事業も、亦都べて一己より締造す。
[訳文]およそ、大丈夫たるものは、自分自身にある者をたのむべきで、他人の智慧や財力、権力などをたのみにしては何ができようか。
天を動かし、地を驚かすような大事業も、すべて、己一個より造り出されるものである。
佐藤一斎著/川上正光全訳注『言志四録(一)』(講談社学術文庫)より
大事業とは、国家的プロジェクトとか、都市を新しく開発するとか、大きなビジネスを構築するとか、いわゆる世間で言われる事業でなくてもいい。
一人一人が自分の人生を作ること自体が、一大事業といっていい。
そこにおいて、頼りになるものは、「己(おのれ)」しかないと『言志録』はいっている。お金とか、人脈とか誰かの力をあてにしない。それどころか、神にさえも頼らない気持ちが大切である。
宮本武蔵も『独行道』でこういっている。
仏神は貴し、仏神はたのまず。
[訳文]神仏は貴いけれど、神仏に頼りはしない。(筆者訳)
「士は当に己れに在る者を恃むべし」の中の「己れに在る者」とは、『言志録』で表現するところの「真己(しんこ)」であり、仏教では「真我(しんが)」であり、「神」といってもいい。時には、潜在意識と呼ばれ、宇宙につながっているともいわれる。
自分の中に「神仏」が在るのだから、わざわざ神社や寺院、教会で神や仏に対して、お願いしなくてもいい。
むしろお願いすることによって、自分の中には、ものすごい力があるということを信じる心を弱めてしまう。
「己れに在る者を恃(たの)む」とは、「自分を信頼しろ」ということだ。
ラルフ・ウォルドー・エマソンに『自己信頼』という本がある。エマソンは、この著作の中で徹底して「自分を信頼しろ。他の何よりも自分の中にあるものを信じろ」といっている。
ここで、自己信頼のコツを教えよう。
自分を信頼して、何かを始める。その結果、失敗したとしても、失敗した自分を信頼する。そして再び、自分を信じてチャレンジする。うまくいけば、自然、自分を信頼する力は増すが、ふたたび失敗したとしても信頼する。
この繰り返しによって、ほんとうの自己信頼が育っていく。
取り立てて挑戦をしなくとも、日々の生活の中で、小さな成功失敗があり、数々の不安や心配が沸き上がりもする。
それでもたえず、「私は自分を信頼している」と自己信頼力を育てていく。すると、「己れに在る者を頼める自分」となり、自己の人生を無限に創出していく力を得るであろう。
「動天驚地極大の事業」も夢じゃない。
もうそろそろ、自分の中から奪われた「神」を、本気で自分の中に取り戻さなくてはならない時代が来ているのだ。
